2016年10月3日

117 この84歳はとても素敵だ! / 岸恵子

チケットを譲ってくれる人がいて、岸恵子の一人芝居「わりなき恋」を観に行ってきた。岸恵子は好きな女優の一人であり、その生き方を含めて憧れの人でもある。
満席の客席は約2000人でびっしり埋まっている。さすがにスター女優と呼ばれる人である。圧倒的に中高年の女性が多い。男性は本当に少なくチラホラだ。不思議な客層で、私がいつも行く新劇、小劇場、アングラの客層と明らかに違う。能、歌舞伎を観に行く層ともちょっと違う。開演前の客席の騒めきもあまりうるさくなく、観劇中のマナーも悪くなかった。オバサンがこれだけ集まっていれば、マナートラブルが起こったりするのだけど、不思議な静けさだった。類は友を呼ぶで岸恵子のファンはお上品な人が多いのかもしれない。
さて舞台はというと、舞台女優でもない人に一人芝居をやらせようなんて土台無理な話で、元より演技力に期待をかけるタイプの女優でもない。だが、随所に工夫は凝らしているので、最後まで飽きることなく観ることが出来た。そして、何よりも岸恵子の美しさである。その現実離れをした美しさはどんな卓越した演技力を持った女優でも決して作れない。そこに存在するだけで充分なのだ。
観劇の後、私の後ろのオバサマ二人組が歩きながら言う。「きれいだったわねえ。あの方幾つだったかしら?」「だってもう…私たちより10歳上なんだから…」「姿勢がとても良かったわね。私たちも頑張りましょうね!」 って、おいおい… 

憧れとは?と思う。へたな努力をしても足元にも及ばないからこその憧れの対象である。現実離れをしていればいるほど憧れは勝る。真似しようなどとは思わない。ただ憧れるだけ。憧れの人の存在は、人を幸福な気持ちにさせてくれるのだなあと改めて思う。