トランク一つで暮したい、と長い間思ってきた。家というものを持ちたいとは一度も考えたことが無い。若い頃から何故か「放浪」「デラシネ」の思いに囚われている。種田山頭火などの漂泊の人にひどく惹かれる。
ここいらで本気で「トランク一つ」を目指してみようと思う。
今や「断捨離」ブームでもあり、インターネットなどを見ても私のようにトランク一つの生活に憧れている人が結構多いようである。専門のスレッドが立っていたのには驚いた。読んだ印象としては皆とても明るい。
私のように人生の最終章に足を踏み入れ、終い仕度の意味合いでモノを整理しようというのでは無く、まだ若く現役中にモノを無くそうというのだから凄い。その身軽さと自由への希求が清々しく気持ち良い。
ところで、トランクひとつの達人で絵になる人といえば、それは「寅さん」だろう。定職につかない風来坊の寅さんは、とても尊敬出来る人とも思えないが国民的人気を誇った。観客の心の根底に自由への憧れが潜んでいるということも人気を支えた要因の一つであったに違いない。
それにしても、いくらなんでもあのトランクでは間に合わない。それにあくまでも「一つ」とは「少ない」のメタファーであって、最終的にはトランク二つくらいに出来たら御の字だろうと思っている。二つだったら旅にも持って行ける範囲だ。でも、まずは一つに何がどのくらい入るかやってみよう。
何かを本気で始める為には、具体的な物を用意し環境を整えるのが有効だという。
まずは102Lの大きめのトランクを購入してみた。色は朱色で柿色にも見えるし、曙色にも見える。暖かみがあって、人生の黄昏時に旅立ちをするにはピッタリの色だ。
さて、何からここに入れようか。
