タイトルバックの書は、昨年の萠さんの個展で求めた物だ。最初は絵に見えたこの書の前で釘付けになった。寒風に土埃が舞う荒野を旅芸人、あるいはジプシーが歩いて行く。落款は太陽に見えなくもない。映画「風の丘を越えて」「旅芸人の記録」のシーンにあったような光景が浮かんで何とも言えない感動に打たれた。
一見アブストラクトな絵のように見える「旅」の字だが、きっちり筆順で書いたと聞き、改めて象形文字としての漢字の成り立ちに思いが至り、感慨深く思った。
ご縁があった作品が他にも何点か私の手元にあるが、時々それを年賀状やこういった物に使わせて頂いている。萠さんはいつも使用を快諾して下さるが、作品を写真に撮ったりプリントしたりすると別の物になってしまうので、大変失礼で申し訳ないと思っている。だが、私がつたない言葉を何万語も連ねても伝えきれないものを、萠さんの一枚の書を通して伝えたいと思うことがあるのだ。
この書に殊更に感動を受けた一人にダンサーの青年がいたそうである。さもありなんと思う。身体表現をする人にとっては、きっと感じるものがあったことだろう。しかし、お金も無い若いアーチストに作品を求める余裕は無く、しばらく書の前に佇んで立ち去り難くいていたそうだ。もしかしたら、この作品は私以上に彼に相応しかったかもしれないが、生きる支えに心に灯すものの一つとして、私にとっても必要な一枚なのである。
