2017年11月25日

159 ビデオデッキ、テープの処分

事務所のビデオデッキが壊れた。流派を越えた一流の能楽師の団体である能楽座の、上演史に残るであろう貴重な公演記録を観て勉強する為に、このデッキを前の担当者が購入したと聞いている。購入した頃は既にビデオの時代では無かったので、テープをDVDにコピーする目的もあったらしい。今となっては私しかやる者は無く、もう先延ばしも出来ないだろうと時間さえあればコピーし続け、やっと終わった。80本程あった。
ついでに個人的な物で残しておいたテープもコピーしようとしたら、1本コピーした途端にデッキが壊れてしまった。ちょっと前からイヤな音がしていたが、古いテープばかりを再生させられたんじゃデッキも具合が悪くなるというものだろう。
何年か前に自分のビデオテープもそれこそ何十本と処分したが、残しておいたのが15本程あった。好きなミュージシャンのライヴ、好きな俳優のインタビュー等、ビデオ屋では借り難い物(と思い込み)を未練がましく捨てられないでいた。既にビデオデッキも処分したというのに…
先日亡くなったジャンヌ・モローのインタビュー(これが素晴らしい!)と、ついこの間カズオ・イシグロがらみで思い出したアンソニ―・ホプキンスのインタビューをコピーしたが、次のテープを入れた途端にギリギリガシャガシャと壊れてしまった。
未練は残すなということだと解釈した。それにこのご時世、ビデオ屋に限らずネットを捜してみれば何でも見られるのだ。しかも、これらのテープを「いつか…」と思いながら、一度たりとも見てはいなかったのだから、尚更である。やはり、残しておかなければいけない物など何一つ無いのだ。









2017年11月15日

158 日の名残り 

ノーベル文学賞がカズオ・イシグロに決まり、今年こそとばかりに書店の一番上の棚に並べられていたハルキに取って代わってカズオが並べられた。ハルキは無冠の帝王となるか?…それの方が文学者としてかっこいいと思うな。
カズオ・イシグロといったら何といっても『日の名残り』が思い浮かぶ。映画化もされ、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの二人のシェイクスピア俳優の名演技が忘れ難い作品である。この機会に改めて観てみようと思ったら、同じ事を考えている人が多いらしくDVDを借りるまでに大分待たされてしまった。
久しぶりに観たがやはり名作だ。そして、この映画を映画として名作たらしめているのは、アンソニー・ホプキンスに他ならない。驚くべき演技力だ。繊細な心の動きを微妙な表情で描写する。改めて心から感心した。
『日の名残り』という邦題も美しい。ほとんど直訳だが、きれいな日本語だ。映画の場合、とてつもなくヒドイ邦題があり、内容が良ければ良いほど失望させられる。最近でガッカリさせられた物に『おみおくりの作法』があった。これもイギリス映画だが、内容が素晴らしかったが故にこの題には本当に失望した。原題は主人公の小役人の人生そのものを言い当てているシンプルな題であったのに、まるでかけ離れているし、こんなセンスで邦題をつける人が映画産業に関わっていることすら嘆かわしい。





2017年11月5日

157 秋の贈物

先日、誕生日プレゼントに素敵な贈物をもらった。
「子どものための日本文化教室」に5年も通ってくれている7歳のサキヨちゃんからだ。彼女の母親のヨシカさんは結婚前は優秀なスタッフとして私の舞台を手伝ってくれた。そのご縁で私の強引な誘いにも拘わらず気持ち良く二人のお子さんを教室に通わせてくれている。お兄ちゃんは中学生になり文化教室には通っていないが、折々の催しには元気な顔を見せてくれている。そのお兄ちゃんの好物でもある「椎の実」を今回はプレゼントしてもらったのだ。
実はこの歳にして椎の実を食すのは生まれて初めての経験だが、とても美味だった。栗のような、ピスタチオのような、香ばしくて美味しい木の実だ。ヨシカさんの実家の庭に椎の木があり、孫が秋を楽しみしているので木を伐れないとお祖母ちゃんは言っているという。とても良い話だ。
手作りが上手な母娘がきれいに作ってくれた箱入りの贈物。どこにも売っていない世界で唯一の物。心から嬉しい。
私のワガママを知っている母親は「消え物ですよ」と半分笑いながら、箱を差し出す。いえいえ、形が残る物だって嬉しい。小さな女の子が心を込めて手作りしてくれた物だもの、去年のネックレスもちゃんと取ってありますよ。