鶴澤弥々さんが新人奨励賞を受賞したということで招待を受け、授与式と女流義太夫演奏会に出かける。先約があったが、彼女の受賞とあっては外せないので、こちらを優先した。
彼女は大学4年生の夏休みから我々の団体でアルバイトを始め、翌4月からは職員として働いてくれた。これが大変な時期で、会長の母親を自宅ターミナルケアをする為に、自宅と仕事場を兼ねたマンションを半蔵門に借り(通っていた病院が近いということが、自宅介護の条件だったので)、事務所機能も移しての落ち着かない職場環境だった。四六時中一緒なので母親の介護にも関わらなくてはならず、こんなことをする為に就職したはずでは無いのに、と思ってもおかしくはないのに、彼女は愚痴一つ言わなかった。その後は仕事に専念してもらったが、何しろキツイ条件の職場であったのでいずれにしても大変な苦労をさせてしまった。その時の思いから、彼女が今後何をやっても応援しようと思っていた。
こちらを退職後まもなくして「太棹に出会った」と聞き、やはり伝統の世界が好きだったのだなあと、そのぶれない姿勢に合点がいった。頑張って欲しいと心から思っていたので、この度の受賞は本当に嬉しかった。義太夫の世界に入ってかれこれ14、5年だろうか。伝統芸能の世界ではまだ「新人」である。これからの長い道のりを彼女ならきっと頑張り通すことだろう。
演奏会では、「弥々!たっぷり!」と義太夫らしい声がかかった。私も心の中で呼びかけた。