2015年3月12日

55 「能」という芸能の不思議

昨日3月11日は、国立能楽堂で東京能楽囃子科協議会の定式能公演を行った。
折しも東日本大震災の4周年にあたり、犠牲者に弔意を表して黙祷を捧げることが検討されたが、地震発生の14時46分は演能中の予定である。10分程の誤差は仕方ないだろうと時間通り開演をした。舞囃子が何曲か続き、地震発生時間にかなり近いところで黙祷が捧げられそうになってきていた。もしかしたら…の想いで舞台モニターの時刻を見つめる。一調の「勧進帳」が終わり、一呼吸おいて、まさに14時46分ジャストに「黙祷」の号令アナウンスが入る。おそらく日本各地で何百万人の人達が時を同じくして祈りを捧げていたはずだ。何とも言えない感慨にひたる。能楽堂のスタッフも「涙が出てきてしまいました」と胸を打たれたようだった。
そもそも能には西洋的、近代的な時間やリズムの概念が無いので、とりたてて急いだり緩やかに運んだ訳では無いのだが、人智を超えた力が働いたのだろう。能にはそういう力がある。能は鎮魂の芸能とも言われるが、犠牲者の方々に追悼の想いが伝わることを願う。