2015年2月9日

51 トランクへ入れる物-7 / 日本国憲法

2月は暗い日曜日で始まった。やり切れない思いを抱きながら一週間が過ぎた。先週に続き完全OFFの休みが一日出来たので、遠い国で起きた凄惨な出来事に思いをはせながら家で静かに過ごすこととする。
一週間しか経っていないのに、この健忘症国家では何も無かったようにテレビなどではガハハとふざけた番組を流し続けている。安部政権の発した「こんな大変な時に政権批判など控えて下さい」という自粛ムードにまんまと乗せられているようにさえ見える。

先週の本整理の中で、最後まで残す物の候補に「日本国憲法」があった。正確には「子どもにつたえる日本国憲法」(著・井上ひさし)である。何冊かあった憲法、特に9条がらみの本の中でこの本が突出していた。著者自身が戦争の苦しさを経験し、子どもの時に公布されたこの日本国憲法を享受した喜びがひしひしと伝わってくる。また子ども向けに書いているので、基本理念が分かり易く、著者が常々標榜している「難しいことを分かりやすく」の精神にももとらない。分かりやすいことは浅い、単純ということではないのであり、子どもにも分かる程の素晴らしい「憲法」であることが、解き明かされているのだ。
憲法公布に、井上少年は「日本はもう二度と戦争で自分の言い分を通すことはしないという覚悟に、体がふるえてきた」と言う。「二度と武器では戦わない。これは途方もない生き方ではないか。勇気のいる生き方ではないか。度胸もいるし、智恵もいるし、とてもむずかしい生き方ではないか。」「なんて誇らしくて、いい気分だろう。」と。
そうやって井上ひさしに導かれて、日本国憲法を読み進んでみる。まず、憲法のエッセンスとも言える「前文」が素晴らしい!その理念の高さもあるのだろうが、格調高い名文である。
「この国の生き方を決める力は私たち国民だけにある  私たちは代わりに国会へ送った人たちに二度と戦をしないようにと しっかりことづけることにした」「私たちは代わりの人たちに国を治めさせることにした その人たちに力があるのは私たちが任せたからであり その人たちがつくりだした値打ちは 私たちのものである」という趣旨が盛り込まれた「前文」だけでも、今の政治家はしっかりと読むべきだろう。
もう二度と戦争はしない、という第9条ができてから70年近く、日本は国として戦争はしていない。そんな国は稀であり、誇って良いことである。日本は平和と豊かさを世界に示すことで、戦争がもたらすものは恐怖と貧困でしかないということを改めて証明しているのである。「何があっても武力では解決しない」「戦争はしない」という日本国憲法は人類の歴史からの私たちへの贈り物であり、しかも最高傑作だ、と井上は言う。そして世界の人々のあこがれである日本国憲法の精神をつらぬいていきたいと提言する。
そうなのだ。日本の代表である首相は宣戦布告のような発言をしてはいけないのである。その代償が、かの地で果てた日本人の命では、あまりにも悲しく情けない。