ポーランド映画は3年程前に観た「パプーシャの黒い瞳」以来だろうか。この「あの歌、2つの心」と共に第二次大戦後の激しいポーランド現代史の話だ。深いテーマをモノクロの美しい映像と抑制された演出で淡々と見せる手法も共通している。それが却って心に響く。アニメやCGがもてはやされる昨今、極彩色に辟易している目や心にモノクロが優しく心地良い。
「あの歌、2つの心」には、全編を通して魅力的な楽曲が流れる。マイルス・デイヴィス、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリディ、グレン・グールド、……そして、ポーランド音楽。繰り返し流れるメインテーマも物悲しく美しい。音楽映画の傑作と言っても過言ではないだろう。
ワイダの「灰とダイヤモンド」などの東欧ヌーヴェルバーグに継承されていく、時代の背景も鮮明に浮かび上がってくる。原題の「Cold War」は、まさに当時の時代背景そのものだが、その時代に翻弄される男女の激しくも哀しいラブストーリーだ。
それにしても、スターリンの圧政とは、と思う。
私が制作に関って20年になる、石橋幸のロシア俗謡コンサートで歌う曲もスターリンの圧政下で禁止された唄が多い。それを庶民やジプシーが密かに歌い継いだ物を石橋が自ら収集して歌っているのだが、その中には、スターリン賛歌を歌わなかった為にシベリア送りになったワジム・コージンの唄もある。彼は「私が歌うのは愛の唄だけです」と、生涯を通じて信念を貫いた。