街を歩くと、道路に写る影法師やビルのガラスの街鏡に、ヨタヨタとした情けない我が姿が映る。身体の衰えを自覚せざるを得ない。運動の必要性を実感していたのだ。
年齢もあり、以前のようにスポーツクラブへ行って激しい運動をする気はない私に周りがこぞって勧めたのが、C....Sとかいう高齢女性向けの、格安で月に何度でも行けて、適度な運動をするクラブだった。妹二人、叔母もそれぞれ長野県のクラブに通っていて効果の程を熱心に話す。友人の母親(90歳過ぎ)も、私にどうかと勧める。それではと住まいの近くを捜すと西早稲田と初台にあったので、乗換え無しで行ける西早稲田へ下見に出かけた。
スーパーマーケットの上にあるそのクラブには、お年頃のお姉さまたちが沢山集まって楽しそうに体を動かしている。スタッフの女性たちはお客さんを「何々子さん」とか「ナニナニエさん」とかファーストネームで呼ぶ。ロッカーも無く、代わりに荷物置きとしてカラーボックスが幾つか並べられている。お客さんへのお知らせは画用紙にカラーペンや色紙を使って貼り出している。何処かで見た光景だ。そう、母が入っている特養なのだ。私は、シャワーが無い理由や、ファーストネームで呼ぶ理由を聞いたりして、もうすっかり意気消沈して、その(老人ホーム)クラブを後にした。
帰路つらつら考えながら、商売上手だなあと感心しきりだった。これから高齢女性は増えるし、ターゲットにしたのはまず正解だ。会員もスタッフも女性だけなのも高齢女性の心理をついている。クズレ気味の身体に汗かきかき、イケメンにコーチされたくないものね。会場も、青山とか渋谷のお洒落な場所に無いのが気楽。(西早稲田や初台の人ごめんなさい!)設備投資も少なくて済む。店舗は地方に多く、何百という日本一の数を誇るのも頷ける。
ここで色々言ったところで、「お前もそういう歳だろう!」と言われるのが関の山だ。でも、楽しみに通えないような所には行きたくないのだ。
そうこうする内に、昨年の秋、アコーディオニストの後藤ミホコさんから良い話を聞いて、ラジオ体操を始めた。10キロ以上の重い楽器を弾きこなすミホコさんの身体はほっそりしながらしなやかで、ずっと何年も体形も変わらず、食べることが好きなので我慢せずぱくぱくと気持ちよく食べる健啖家でもある。代謝の良い身体とはこういうことかと目の当たりにしている。以前から感心していたのだが、やはりそういう人は身体に気をつけていて、努力をしていたのだ。かといって激しい運動をする訳でもなく、やっているのは毎日のラジオ体操と週一のヨガだという。ラジオ体操を始めたきっかけは、彼女のラジオ番組のスポンサーでもあり関西での親しい交友関係にある、大阪の腰痛館というクリニックのヒロ先生の勧めだったそうだ。
「一日に3分ぐらい時間を取れないはずはない」「まず三ケ月やれば何かが変わる」とヒロ先生はおっしゃったそうだ。改めてそう聞くまで、ラジオ体操を大層なもののような気がして重い腰を上げられなかった私も早速始めたのだった。10月だったので、三ケ月やれば丁度年末だし区切りもも良いなと、ヒロ先生のこの二つの言葉をおまじないにしてやってみた。旅行中も続けられたし、休んだのは3日もなかったろうか…
そして、年明けて二ヶ月続けて3月に入った。今月末で半年間続けたことになる。半年!これを同じ時間続ければ、1年だ。時の過ぎるのは早く、過ぎてしまった半年や一年を振り返る時、もう…、とネガティヴな気持ちになりがちだが、何か具体的な行動の毎日の積み重ねの結果だと思うと、その時間の長さに充足を覚えることに気がついたのだった。もう30年もラジオ体操を続けているんですよ、なんて自慢になるよね。(そんなに生きる気か!?)
もう一つ、やりたかったヨガだが、近所に良い教室が見つかった。千駄ヶ谷の緑の中のひっそり隠れ家的一軒家で少人数制だ。シニアミドルコースがあり、そのゆるゆる加減が今の私向きでもある。ヨガも幅広く、行者みたいな人もいるが、私が以前やっていたヨガはストレッチスポーツ系に近かった。この教室はインド系で内面、内部に向かうタイプで、細かい神経が目覚める感覚が気持ち良い。
ヨガもいずれルーティンになれば良いなあと思っている。そうなった時に、積み重ね、過ぎた時間が愛おしく思えれば尚のこと幸福だ。
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緑の中ひっそりと |