能楽太鼓方観世流の観世元伯師が亡くなり、昨日は通夜に列席した。
お清めの日本酒をいただいたこともあり、泣き顔を明るい照明の下にさらしたくもなく、青山から自宅まで小一時間程、寒空を歩きながら元伯先生を偲ぶ。
思えば51歳という若さであった。技量にも優れ信頼できる人柄で、これからの能楽界を中心になって引っ張っていくはずの存在でもあった。本当に残念だ。親族席には奥様、年若い二人のお嬢様、年配のご両親が並んでいらっしゃる。逆縁の辛さ、如何ばかりであろう。
伝統の家に生まれた人の中には若い頃に寄り道をしたり、よそ見をする人は少なくないが、元伯先生の場合はそういうこともなく、能の世界が好きで真っ直ぐに歩いて来られたようだ。それでいて能楽の狭い世界に留まらず、社会的な目を持って世の中を観ていて博識だったので話も豊富だった。
能楽の囃子方はひな祭りの五人囃子に例えて説明されることがあるが、元伯先生のお顔を「お雛様のよう」とは、スタッフがよく言っていたが、お公家さん顔のスッとしたお顔で冗談を言うお茶目な所もあった。気取った所はなく、本当のお坊っちゃんとはこういう人なのだろうなと思わせた。
公演終了後、「もう終ったから早く迎えに来てもらうようにノロシを上げなくっちゃ」ととぼけた言い訳をしながら喫煙所に向かって行ったが、「ノロシを上げ過ぎるとテキに見つかってエライ目に会いますよ!」と言う私に、煙草の入ったポケットを、大丈夫!と言わんばかりにポンポンと叩いていらしたが、食道癌というテキには勝てなかった。
心から感謝を捧げ、ご冥福を祈ります。