2017年3月26日

135 おめでとう佐々木譲さん / 日本ミステリー文学大賞受賞

作家の佐々木譲さんが日本ミステリー文学大賞を受賞し、帝国ホテルで行われた祝賀パーティに仲間と共にわいわいとお祝いに駆けつけた。
譲さんとは、共に寅年の演出家の高橋征男、舞台監督の島洋三郎、制作の私とで「グループ虎」という演劇ユニットを組んでおり、譲さん原作の演劇を上演してきた仲である。初演は20年ほど前になるが、「新宿のありふれた夜」だった。これはもう何回も再演している名作で、「我撃つ用意あり」という題名で若松孝二監督が原田芳雄主演で映画化している。混沌としたディープな街新宿を舞台とした、路地裏の小さな飲み屋の学生運動くずれの中年の店主とベトナム難民の少女の物語である。
最近は譲さん原作のサスペンスドラマも放送されることが多くなったが、初期の頃の冒険小説の世界は壮大で、簡単に舞台化、映像化出来るような物ではなかった。男性ファンが多かったのもその頃だろう。その後、歴史、警察、法廷小説とジャンルを広げてきて、それぞれが譲さんらしく掘り下げた視点で描かれている。
何年か前に直木賞も受賞しており堂々のベテランであるといえるのに、ご本人は以前と変わらずいつも謙虚だ。受賞スピーチも「例によってあがってしまった」との弁だが、慣れきってしまうことがない生真面目な人柄だ。破天荒な作家ばかりを見てきた私は、そういう佇まいの譲さんがどうやって小説を書くのかとても興味があり、ある日稽古帰りの電車の中でたまたま二人きりになった時に思い切って聞いた。
それはどこからか降りてくるのだそうだ。何者とも呼べないものに書かされるのだと。それは大抵夜中だということだった。それを聞いて私は、「やっぱり作家なんだなあ」と感心したことを思い出す。