知人の音楽プロデューサー望月芳子さんに招かれて、「童謡誕生ストーリー」というタイトルのコンサートに行ってきた。私は日頃から、日本のわらべ歌、童謡、子守唄はもっと歌われるべきだと思っているので、童謡の成り立ちを時代の検証と共に時系列に追っていくというこのシリーズには大変興味を持っていた。今回はその2話ということで、大正から戦時下の時代に作られた歌が中心だった。
「お山の杉の子」「里の秋」は戦意高揚の歌詞が戦後は書き換えられて歌われているのは有名な話だが、しみじみと哀愁のある「里の秋」は、父を南洋の戦地に送った少年と母の銃後の歌である。当時、日本の各地ではこのような母子の姿が沢山あったに違いない。
ふと気が付くと、通路を挟んだ隣の席の70代とおぼしき男性がすすり泣いている。その前の席の女性もハンカチを目に当てている。涙が出るのは歌の内容のメロドラマ的哀れさによってではなく、自分の思い出によって別の情緒が揺さぶられるのだろう。
かく言う私も、いくつかの歌に自分の記憶が重なり涙がこぼれた。それは決して悲しい涙などではなく、カタルシスにも似た温かいものであった。