2014年5月7日

19 思いがけない母の一言 / 故郷の春

「私はどういう人間ですか」と母が問う。ふいをつかれて私は困惑し、平静さを装いながらも「名前は・・・・・といって」と母の名前を言った途端、「そんなことは分かっている!」とぴしゃり。アルツハイマーの症状がまた少し進んだ母の口からは、以前の母のボキャブラリーには無かった本質的な言葉が出る時があり、驚かされる。禅問答のようになる時がある。
それにしても「どういう人間か」と訊かれてまず名前を言うとは、野暮ったい答だったなあと我ながら残念である。それは母が理解するとかしないとかの問題では無い。どうせすぐ忘れるからどうでも良いということでもない。私だったら相手にどんな答えを期待するだろう。これは結構深い問いである。
この連休を利用して、叔母二人と妹二人とで母を老健から連れ出し、野辺山の山荘に泊まった。この山荘はお料理が美味しいので、地元の人も宴会などに使うことがある。摘みたての山菜の春の緑が目にも嬉しい。母も「美味しい、美味しい」と沢山食べてくれた。
部屋から八ヶ岳がよく見えて、今年は大雪だったせいか雪もまだ沢山残っている。山国の春は遅く、花は一斉に咲く。山桜、コブシ、レンギョウ、雪柳…カラマツの新芽も美しい。
「白樺 青空 白い雲 コブシ咲くあの丘 北国の春」の作詞者いではくは、同郷である。叔母の一人と同級生だ。あの歌は東北の春を歌ったとされるが、我が地元の人は「明神様のあのコブシを思い出して作ったものらしい」と、ありがちなモデル捜しをしたりしているから可笑しい。小学校近くの古い小さな神社のコブシの白い花は、春を告げるシンボルだった。
北国も山国も春の風景は同じであろう。日本の田舎の原風景がここにある。自然の中の生命の息吹を見て、あー今年も春が来た、あー今年も私は生きている、と感じながら、人は元気になるのだ。やっぱり春は良い。

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