オバマ大統領の広島訪問は歓迎一色で、演説は一大叙事詩とまで絶賛された。確かに称賛に価することに違いないとは思うのだが、私は多少の違和感を持った。歓迎ムードに押されて、核に対する恐怖感が薄れてしまっていたように思うのだ。この訪問で一件落着とされてしまう恐れはないのだろうか。日米同盟の強化に役立った、中国を牽制できるなど、メディアの論評も気になっていた。
そこへ、旧知のHさんからメールが来た。彼は今、咽頭癌を患い闘病生活を送っている。
Hさんのお父様は「マッカサーが探した男」として、本やドキュメンタリーの素材にもなった人で、ハーバード大学出の日系2世のエリートだ。戦争が無かったら、Hさんも日系3世のアメリカ人として日本で暮らすこともなく、私たちと出会うことも無かったに違いない。日米関係にはずっと複雑な思いもあったことだろう。
日頃、社会批判をしシニカルな物言いをするHさんだが、今回のことに対してこんな風に言ってきた。
久しぶりに素直に響きます。
大統領の人柄とスピーチも心に響きます。被爆者には深い謝罪を求める気持ちはあるだろうが、歴史的にも政治的にも現状ではここ迄でしょう。それでも、世界史的に価値あるメッセージには違いない。
実は、私の本籍地は広島市本町、爆心地の近くです。投下の一週間前に、母に連れられて実家(ハワイ移民以前)を訪ねる予定だった、と聞かされていました。6才でしたが、疎開先で何人もの被爆者に会っています。
戦後史の中で、長崎・広島は象徴的な意味を持っています。現実的な課題は沖縄でした。今回の広島訪問は、「核軍縮」と「核なき時代」を現実の課題に再浮上してくれました。内政に行き詰まり、外交に悩む疲れきった大統領の姿に同情しつつも、深い感謝の念を覚えます。
過去を知る、七十過ぎた無力な老人にも、何がしか未来への希望を与えてくれた出来事でした。
私の戦後史もこれで決着します。七十年は長かったが、いい終幕でした。
実体験からの素直な言葉は、私にも素直に届いた。
Hさん、長きにわたって待っていたこの瞬間を、お元気で見届けることが出来て良かったですね!この先を見る為にも長生きしなければいけませんね!