仕事が立て込んでくると猫の手も借りたいのはどこの職場でも同じだろう。私の職場では、猫の手ならぬ孫の手を借りてている。正確に言うならば又姪(孫のようなものだ)の親である姪の手を借りているのだが、生まれてまだ10カ月のゼロ歳児を伴っての出勤だ。この子が生後3ヶ月の頃から外出が出来るようになり、寝かせておけばいいからと週に1、2回程来てもらっているのだが、その内に寝ている時間も短くなり、今はもこもこと事務所を這い回っている。仕事場でもあるし、泣いて手に負えなくなったら帰すことにしているが、帰したのは1回だけという優秀さだ。
スタッフも「仕事に疲れたら、サツキちゃんを抱っこして癒されましょう!」と大らかに対応してくれて、早速ついたあだ名が「イヤシ部長」。テレビで木下ほうか演じる「イヤミ課長」がなかなかの人気キャラらしいが、こちらはゼロ歳児にしてあだ名がついた職場の人気者だ。女の子ながら男顔で行動もかなり激しくお転婆で、親が与えた赤ちゃんらしい女の子らしいおもちゃには目もくれず、事務所の文具や紙類がお気に入りでくしゃくしゃといじったり口に入れたりしていて、公演終了後の余ったチラシを彼女に与えているが、まき散らしてなかなか豪快に遊んでいる。まだオノマトペも獲得していないので、エイッでもなくヨイショッでもない、何とも表現し難い音声で掛け声らしきものもかけたりしている。デスクの下などの狭い所も好きで、いつのまにやら入り込んでいるが、事務所は自宅にはない面白い物がいっぱいあるワンダーランドのような所なのだろう。彼女にとっては毎日毎日が生まれて初めての体験ばかり。興味津々とばかりに学習している姿を見るのはとても新鮮だ。まさに赤ちゃんは学びの天才。私達も赤ちゃんだった時もあるのに、その学び方を忘れてしまって可能性や自由を閉じ込めていることを痛切に感じる。
そんなこんなでさして邪魔にもならず、今のところはイヤシ部長のたまの出勤は続いているが、歩き出したら手もかかるし危険が生じて注意も怠れないとなったら、来てもらうのは難しいかもしれない。こちらは託児所がある大会社とは違うのである。世の中には、イクメン、イクボス、イクカンなどの造語を通じて、子育てを推進し母親が働き易い環境を作る動きがあり、それはそれで良い事だと思うが、本来あたり前のことをキャッチコピーを作って推進しなければいけない社会自体が問題ではある。
だが、社会は変わりつつある。通勤途中のスーツ姿で赤ちゃんを抱っこしている若い父親を見かけることも多くなった。先日は電車の中で、抱っこした赤ちゃんのアーアーという喃語に、そうだね、そうだねと優しく答えている若いパパの様子がとてもほほえましかった。彼らが自然体であるのが大変好ましい。