まだまだ続くこの暑さには参るが、暑さで唯一良いことは、一日の終わりに飲む冷えたビールの美味しさだ。今年の夏もどのくらい飲んだことだろう!
そんなところにぴったりの詩が届いた。詩人高田真さんの新しい詩集「猫のねているあいだに」の中にビールへの賛歌が込められている一篇があった。難解になりがちな現代詩の中で、平易な言葉で素朴でノスタルジックな世界を創出する高田さんは、私が好きな詩人の一人である。
さあ、これを読んで、今日も美味しいビールを飲むことにしよう!
一日の仕事の終わりには
一杯のビール
まず一杯
詩人の教えに従って
今日の労働に けじめを付ける
そこからひとりの食卓で
二匹の猫たちと
ささやかな晩餐会がはじまる
多くを望みはしないが
この穏やかな生活が続くように
夜空に
ふたつみつと星星が輝きはじめると
いとおしいものたちのことがこみあげてくる
この胸の中には 私が死ぬまで在るのだろう
故郷の消えた村の名も 愛する人たちも
(根っこを張り
巨木のように枝葉をひろげ)
一日の秩序から解き放たれて
ふかく根を下ろしていく
地の底 水底 の声を聞く
また ふうわりと
根を引きずりながらも
まだ知らない土地を夢みる
いつか うたたねの心地良さ
猫がザラザラの舌で
卓にうつ伏せたほろ酔いの
私の頬を舐めている
冒頭の詩人とは、茨木のり子である。
「六月」は、私も大好きな詩だ。
どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終わりには
一杯の黒ビール
鍬を立てかけ 籠をおき
男も女も大きなジョッキをかたむける