ジャンヌ・モローが亡くなったことを嘆いている私に、サム・シェパードも亡くなってしまったことを知らせてくれた友人のSが「さらば青春、という感じよね」と言う。彼女はかつて映像の勉強をしていたので、時代的にもヌーベルバーグの影響を少なからず受けており、若い頃彼女と、マル、トリフォー、ブニュエル等、熱く語ったのを思い出す。『死刑台のエレベーター』はマイルスディビスのトランペットも素晴らしく、『マドモアゼル』『小間使いの日記』等々、ジャンヌ・モローには斬新で衝撃的な作品が多かった。『突然炎のごとく』は忘れられない作品だ。かつての女優は正統派の美人でなければならなかったが、彼女はそういう枠組みから離れて個性を発揮した女優のはしりのような人だろう。顔が整っていなくともとても魅力があった。口がへの字に曲がっているのも却って色っぽくアンニュイだった。その口元の表情に自分を持っている人の意志の強さも出ていた。
歳を取ってからの作品『海を渡るジャンヌ』も好きな作品だ。ハリウッド女優のように顔を引っ張り上げたりしなかった彼女は「皺の2、3本が増えたからってそれが何?老いることで問題にすべきは心。心のあり様が表情に出るのだから」「生きることと自由が大好き」と日頃言っていた通り、『海を渡るジャンヌ』では皺も体形も隠さず、若い男を翻弄する堂々たる女詐欺師を演じていた。70歳近かっただろうか。かっこよかった!
サム・シェパードも実にかっこいい男だった。彼も正統派の美男子というタイプではないが、知的で野性的、孤独の影と包容力、相反する要素が共存し何とも魅力的だった。『女優フランシス』では、主人公を理解しどこまでも見守る懐の深い男を演じていて、「こんな恋人がいたらなあ!」と思ったものだった。それにしても感動的で胸が痛む作品だった。
彼には劇作家、脚本家としても幾つもの作品があるが、『パリテキサス』はヴィム・ベンダースを世に知らしめた作品でもあり、荒涼として孤独感漂うこのロードムービーは、忘れがたい作品だ。『天国の日々』『ライトスタッフ』の彼も素敵だった。時々、エンターティメント系の軽い(?)映画にも出ていたが、そんな中でも彼らしく存在感を示していた。
大好きな二人が亡くなってしまいとても悲しいが、映画という永続性のある素晴らしい文化のお蔭で、二人にはこれからもスクリーンの中で会えるのだ。
二人に感謝。心から冥福を祈ります。